卒業生の声

黄 郁傑 (2018年度卒業)

●現在どのような仕事をしているか

某建築会社の本社海外事業部に勤めています。

営業をしたかったことや喋るのが好きなので、営業に向いていると思ったこと、家を建てることに関わりたいと考えていたことが現在の仕事を選んだきっかけです。

最初は院に進むことを考えていたため、就活に熱心ではありませんでしたが、7月ごろに内定をもらいました。

●文化人類学専修で学べたこと

台湾の出身で、日本にいること自体が異文化との接触だったので、異文化交流や職について学べるような講座ということで学ぼうと思いました。

学べたと言っていいのは、鵜呑みにせずに自分で考えるようになったこと。入ってきた情報に対して「こういう方面から見たらどうなのかな」、「本当にそうなのかな」といった疑いを持つ(批判的にみる)ようになりました。

●大変だったこと

質問を一つ考えるにあたって沢山本を読み、同時にそれをまとめる作業をしなければならないことや年表をひたすら読み込むといった、興味のない分野の本を読むことが辛かったです。

●楽しかったこと

喋ることが好きだったので、いろんな人といろんな話ができるというところが楽しかったです。調査実習のように、初めての土地で初めて会う人と会話をするというのは、その経験や機会自体が貴重であり、また、話をするために共通話題になるようなことを沢山勉強しなければならなかったので、その勉強の部分も含めて楽しかったです。

●文化人類学を学んで役に立ったこと

物事に対して疑問を持つ点や、批判的に見るという点は役に立ってると思います。

●文化人類学を志望する人への期待

みんなすごい特徴的な何かを一つ、二つ三つあるかもしれないけど、何か一つ持っているので、その特異性を活かせるような取り組み方をしたらいいんじゃないかと思います。それを自分で見つけて、自分で伸ばして、自分で活かすところまでやれたら、文人の中でも生きていけるんじゃないかなと思います。

●あなたにとって文化人類学とは

文化人類学は、自分の目を開かせてくれました。今まで興味のないことが多かったのですが、自分が本当に何も知らないんだということに気がつきました。いろいろなことをいろいろな方面から考えるというのが文化人類学のやることなので、その環境に少しでもいられたというのは、自分の至らなさに気づかせてくれたという意味で、すごく感謝しています。

田付 まゆ(2015年度卒業、2017年度修士修了)

●現在どのような仕事をしているか

私は今パラオに住んでいて、派遣員として2年間の契約で在パラオ日本国大使館に勤務しています。同期の87名が世界中さまざまな国に行っています。私も契約が終わったら一度日本に帰り、次のステップを考えようと思っています。

●文化人類学専修で学べたこと

私が初めて文化人類学に触れたのは学部一年生の文化人類学基礎の授業のとき。そこではこれまで見たり、聞いたりしてこなかった世界の側面に触れられるような気がして面白かったです。

文化人類学を通して学べたことはとても基本的なことですが、日常的に私たちは自身のフィルターみたいなものを通してさまざまなものを見たり、聞いたりしているということです。だから物事を決めつけたりせず、「当たり前」とか「普通」とかという言葉の使い方にも気をつけないといけないなということを学んだと思います。

●大変だったこと

特に修士論文を書くときで、まず自分で興味のあるテーマを設定し、それに合った文献を探し、調査の切り口や実際誰にどのような調査をするかというのを考えて、その後読んだ本とその理論をいかにこのような調査に組み合わせるかを考える作業が本当に大変でした。

●楽しかったこと

難しい本を分からないなりに読んでみることです。たくさんの文献にあたっていくなかで、前に読んだものとのつながりに気づけたりしたのが楽しかったです。

あとはやっぱり調査ですね。調査対象のクルド人の方が、何度も会っているうちに心を開いてくれるようになって嬉しかったです。現在でも友人として連絡を取り合っています。調査をしているときは、授業後調査に行ったり、料理を振舞ってもらったり、さまざまな会話をしたりして一緒に時間を過ごしました。

●文化人類学を学んで役に立ったこと

「当たり前」を疑うようになったことです。また、知らないことや新しく出会ったことに対しても驚かないようになりました。パラオの地元の人々は時間にルーズで、すぐに向かうと言ってから1時間ほど後に到着したりするんです。時間の概念にもいろいろあるのだな、と思えるなど、人類学を学んで身についた「寛容さ」が日常にも生きていると感じることがあります。

●文化人類学を志望する人への期待

向いていると思うのは決めつけや思い込みのない人、オープンマインドの人、積極的に考えることのできる人かな。何事にも興味を持って、国内・国外に関わらず自分が暮らしている・知っている世界の外に出て行くことが好きな人は文化人類学に向いていると思います。自分がそれまで見てきた・聞いてきた事の中に閉じこもるのではなくてね。そうすることで新たな発見や出会いがあったりもするのだと思います。

●あなたにとって文化人類学とは

学部生の時に、授業でアマゾンの研究をされている教授のお話を聞いて衝撃を受けました。また、鈴木教授は文化そのものを問い直していたりする。そういったことに触れたことが高校までの答えが一つに定まっていたり、たくさん暗記したりすることだけが勉強であるという考え方を変えるきっかけになりました。学部生の時にカナダへ留学に行ったときも、それまでの「普通」とか「当たり前」を最初から覆されました。同じように暮らしていても、いつも見ている風景に対してちょっと違う視点から疑ってみる、このように世界を見ることができるようになったのも文化人類学のおかげだと思っています。

文化人類学は世界を見る視野を広げてくれ、同時に、一つの物事をより深く考えさせてくれるきっかけになる学問だと思います。

A.K.(2006年度卒業、2008年度修士修了、2016年度博士修了)

●現在どのような仕事をしているか

 千葉大学人文公共学府地域研究センター特任研究員をしています。その他に、立教大学社会学部・文学部、千葉大学人文公共学府で非常勤講師を勤めています。

●文化人類学専修で学んだこと

 行動科学コース全体に言えることなんですけど、自分の立てた問いに対していろんな調査をして説明することが学べました。文化人類学は資料を使ったり、インタビューやフィールドワークをしたりと、その色々な経験が今でも役に立っています。あと、ありきたりなんですけど、世界にはすごくいろんな人がいて、それぞれに違った当たり前があることを再確認しました。研究テーマについては、最初は自分の出身地の環境認識について学んでいましたが、その地で開発に対する反対運動が起きました。でも反対運動の「自然は守らなきゃいけない」という言説と実際に自然に関わっている人たちの認識とは乖離しているんですね。しかし「守らなきゃいけない」と言わないと反対運動はできない。そういう矛盾を経て、大きな枠組み、当たり前自体を問いなおせるように、大学院に進学しました。

●研究する上で大変だったこと

 自分たちが当たり前だと思っている認識枠組み自体を問う、ということがなかなか受け入れられないことですね。それをするということ自体を、自分の暮らしに関わっているものとして離れた場所とかの暮らしも提示していきたかったので、そこをどうつなげるか、動機をわかってもらうのがすごくつらかったですね。今でも苦労していますけど(笑)

●楽しかったこと

 フィールドワークです。海外でフィールドワークをすると自分の知らないことに触れられたり、日本でのフィールドワークも自分と違うや他分野の話を聞けるのが楽しいですね。フィールドワークは知らない土地に行くから不安にもなるけれど、危ない所ではあまりしない方がいいけれど、土地勘を把握するために歩きまわるんですよ。歩きまわった時に人と知り合えれば、その人を通じてその土地を知ることができるし、知り合いができるから不安もなくなります。不安はつきものですが大丈夫ですよ。あと、おいしい食べ物がたくさん食べられるのもフィールドワーク中の楽しみの一つですね。    

●人類学を学んで役に立ったこと

 直接的に役に立つことではないんですけれども、相手側の立場に立ってみたり、相手のバックグラウンドについて思いを巡らせて、客観視することができるようになったことです。このことは生きていくうえで役に立つことだと思います。

●文化人類学を志望する人への期待

 疑問を抱きつつ客観的に考えてほしいです。先生が何か話をされた時も、自分の経験からそれは本当にあっているのか?というふうに、考えられるとよいと思います。あとは、わからないものがあるときに、そのまま流してしまうのではなくて、わかるまでしっかり考えることも大事です。

●あなたにとって文化人類学とは

 人類学って、いろんな立場の考え方を含めて包括して考えることができる学問だと思っています。自分の経験の中で私って何なんだろうと思うことがあって、それに対して一つの答えを与えてくれたのが文化人類学でした。他者も自分も含めて理解させてくれる、自分を救ってくれるようなものなのかなって思います。